2016年6月24日金曜日

「投票って何?」ある絵本に驚きの答え

私は、毎晩、子どもが眠る前に好きな本を一緒に読みます。ある日、息子は学校の図書室で借りてきた本を持ってきました。

かこさとし しゃかいの本
こどものとうひょう おとなのせんきょ

というタイトル。

こういう「お勉強」的な本を借りてくることがなかったうちの子にしては珍しい選択でした。

「どうしてこの本を借りてきたの?」
「何となく。どんな本だかわからなかったけど。」

7歳の息子にとっては、投票も選挙もあまりなじみのない言葉。ピンクと水色の格子模様の明るい表紙に何となく惹かれただけだったのかもしれません。

作者のかこさとしさんは有名で私も好きな絵本作家です。私自身、子どもの頃に「からすのパンやさん」や「だるまちゃんとてんぐちゃん」など読みましたし、自分の子どもにも読んであげています。この本の存在は知りませんでしたが、多分いい本なのだろう、と思って私は子どもと読み始めました。


子どもの「とうひょう」

お話は、子どもたちが遊ぶ児童館前の広場が舞台です。野球、サッカー、おにごっこなど、いろいろな遊びをする子どもたちがたくさん集まっています。でも子どもが多すぎて、お互いが邪魔になり、広場でけんかが始まってしまいます。

なんとなく大人の私には想像がつく、展開です。

そこで、広場で何をして遊ぶか、投票で決めようということになり、全員で投票をし、1番票を集めた遊びをすることになりました。

野球をやっていた子が多かったので、野球が得票数1位となり、広場では野球をすることが決まりました。
「だって、 みんしゅしゅぎだもん、 たすうけつだよ。」

でも、何か変じゃない? 一緒に読んでいる息子が釈然としない顔をしています。


「みんしゅしゅぎ」のいいところ?

ここで、「トキあんちゃん」という年上の男の子が登場します。トキあんちゃんは、みんなに言います。

「そうだよな。みんしゅしゅぎは、 いいことを みんなで きめるんだよな。
かずが おおいから、 いいんじゃなくて、 たとえ、 ひとりでも、 いい かんがえなら、 みんなで だいじにするのが、 みんしゅしゅぎの いい ところだろ。
それを まちがると、 かずが おおい やつが、 かってに いばったり、 わるい ことを しだすんだよな。」

最初の話し合いの時、広場で遊ぶルールをつくる委員を決める、という提案をしていた子がいました。その意見は、多数決の投票の中でかき消されてしまいましたが、トキあんちゃんはそれをすくい上げ、みんなで委員を決めるように説得します。

みんなの投票で委員に選ばれた子は、曜日ごとに広場で遊ぶ内容を変えて、みんながしたい遊びが交代でできるルールを考え、みんなに提案しました。みんなもちろん賛成。みんなが広場で楽しく遊べるようになりました。めでたし、めでたし。


最後の意外な展開に

しかし、まだ話は終わっていません。子どもたちは他に心配していることがあるというのです。子どもたちの心配とは何なのか、私は全く予想ができないまま、最後のページを開いてみました。


それは、 こどもの あそぶ ところは、 せまくて ちいさくて どうぐもないのに、 おとなの あそぶ ところは、 どんどん ひろく ずんずん りっぱに ふえていく ことです。 ケンちゃんたちは、 これは、 せんきょを するのは おとなだけなので、 おかねもうけにならない こどもの ことなんかは あとまわしになるからと、 おもいました。
おとなだけの せんきょで かずが おおくなった ものが、 かってな ことを している ためだろうと、 おもいました。
だから、もし、このまま せんきょを つづけていくと、 おとなの たすうけつで、 じどうかんの まえの ひろばは、おとなだけの ゴルフれんしゅうじょうか、 こどもが はいれない パチンコやに みんな なってしまうかもしれないと、 ミドリさんも トシぼうも しんぱいを している ところです。

私は黙ってしまいました。この本は、子どものための本であるかのような体裁になっていますが、最後に、子どもの前で大人が、こんな痛烈な批判を受けることになるとは。

息子も黙っています。でも、何となく、私が感じたことがわかったのかもしれません。とにかく説明をしてほしい、という顔をしているので、私はどういうことなのか、話してあげなくてはならなくなりました。

私は絵本に追い詰められた気持ちでした。多数派の正義? 政治が悪い? 政治家が無能? そんな言葉は通用しません。

最後に、作者のあとがきがありました。


この本は、少数でもすぐれた考えや案を、狭い利害や自己中心になりやすい多数派が学び、反省する、最も大切な「民主主義の真髄」をとりもどしたいという願いでかいたものです。「民主主義のヌケガラ」と後世から笑われないために、私たち自身が反省したいと思っています。

引用: かこさとし著 かこさとし しゃかいの本 こどものとうひょう おとなのせんきょ (童心社)1983年


野口由美子



2016年6月17日金曜日

5歳の娘と1マイル。子どもとマラソン、したことありますか?

6月、ヨーロッパでは一番いい季節の到来です。晴れの日は外で過ごすのが気持ち良く、逆に外に出ないと短い夏を逃してしまいそう、と焦りを感じるくらいです。北ヨーロッパでは夏の日差しは貴重なもので、学校でも外でのイベントが増えます。

ちょうど先日、娘の学校でマラソン大会がありました。

'Run a Mile'

子どもたちは、チャリティのために1マイルを走り、家族や友達から寄付を募ります。集まったお金は、アムステルダム自由大学病院の小児がん研究に寄付されます。
子どもと保護者は、先生の先導に従って、公園のルートを走ります。「走る」ことを勧めますが、子ども(大人にとっても!)にとって距離が長すぎると感じる場合もあるかもしれません。その時は歩いても構いません。
ゴールした子どもに水のボトルと表彰状を渡します。

お知らせの手紙にはそのように書いてありました。マラソン大会というと、小学生くらいからやる印象があったので、幼稚園生の5歳くらいでやることはちょっと意外に思いました。1マイルといったら、1キロ以上。走れるものなのかしら。

マラソンとは無縁の私も

当日はいい天気。朝、多くの親が子どもと一緒に学校近くの公園に集まり、一斉にスタート!



いつも元気よく走り回っている男の子は勢いよく飛び出し、一緒にいたお母さんを置いてどんどん先に行ってしまっています。

娘の友達の女の子は、お父さんと一緒に一生懸命走っていますが、すぐに歩き始めてしまい、お父さんに「走ろう!」と励まされています。

ベビーカーを押しながら参加するお母さんと一緒にずっと歩いている子もいます。



私の娘は、2,3回歩いて休みながらも、走って完走しました!(ジョギングを全くしない私も無事娘と一緒にゴールしました)
「終わった、よかったー!」

走り終わった後の子どもたちの表情は、達成感で自信に満ちているように見えました。




走ってみたら

ただ走るだけの簡単なイベントなのですが、その簡単さが良かったように思いました。幼稚園年長さんくらいから、小学生になれば、サッカーや水泳や、いろいろなスポーツをやって、「できた!」とか「勝った!」とか、達成感を得られることが増えていきます。上の子は正に運動好きの小学生で、勉強よりもスポーツをやって、自信になっていることが多いです。

でも、4,5歳では、スポーツをやりたい気持ちはあっても、そこまで到達しないことが多いように感じます。スポーツというよりは、遊んで体を動かしているのが楽しいのだから、それで十分なのかもしれません。

その程度のことしか考えたことなかった私には、マラソン大会は新鮮でした。

いつも走り回ってばかりの小さい子どもに、1マイル走ってみよう、という目標ができたら、いつもの「走ること」、が自信につながりました。

親子で走る、なかなかいいです。


マラソン会場のベアトリクス公園。気持ちいい朝でした。


野口由美子

2016年6月10日金曜日

なぜ子どもの貧困対策が「キャンプ」なのか?「小中学生あすのば合宿キャンプ」

20163月、千葉県立君津亀山少年自然の家にて、23日のキャンプが行われました。参加者は全国各地の小中学生23名とその保護者4名。高校生、大学生スタッフが加わり、総勢60名ほどの人々が集まりました。

子どもの貧困対策センター「あすのば」による「小中学生あすのば合宿キャンプ」です。

このキャンプでは貧困世帯の小中学生の子どもを招き、ボランティアの学生が主体となって、野外炊事でカレーライスを作ったり、ゲームやダンス、キャンプファイヤーをしたり、さまざまな活動に挑戦します。



3日間という短い期間、参加人数にも限りがあります。そんな制約の中、子どもの貧困問題という大きな問題に対して何ができるのでしょうか。

確かに、子どもたちを取り巻く環境を3日間で変えることはできません。でも、参加者の子どもたち、そして主催する学生スタッフにも大きな収穫がありました。

ありのままの自分を受け入れてもらえる自己肯定感

最初は緊張している子どもも、だんだん打ち解けてくると
「肩車して!」
「おんぶして!」
と大学生、高校生のお兄ちゃんお姉ちゃんに甘えてうれしそうにしています。子どもにはそれぞれ、スタッフの学生が一人付いて、ペアとなって交流を深めました。参加者の中には、親や周囲の大人に甘えることができなかった子どもたちもいます。子どもたちを受け止めようと一生懸命な学生スタッフとのふれあいは大切な体験となり、いつの間にか学生スタッフまでも笑顔になっていました。

「素の自分が出せる、その子の気持ちが自然に表現できるようなことが子どもにとって一番いいんだな」と感じました。(学生スタッフ、三宅正太さん、創価大学4年)


自分にもできた!達成感を自信につなげる

キャンプは日常生活とは違うアクティビティをたくさん体験することになります。キャンプファイヤーや野外でのカレー作りが初めての体験となった子もいました。初めてのことができた、という経験は、大きな自信につながります。

初めてのキャンプファイヤーだったので、ドキドキしました。みんなで火をかこみ、おどって、じゃんけんゲームをしました。ぼくはあすのばのキャンプに参加して、よかったーと思いました。(小6男子)


自分はひとりではない、孤独感からの脱出

キャンプでは「たった3日間の短い時間だけでも、自分を大切に思ってくれる人がいることを実感してほしい」(あすのば代表理事小河光治さん)という狙いがあります。

なじめそうにもなくて、とても不安で胸がいっぱいでした。・・・1日目は少しの人としか話せなかったけれど、2日目には幼い子といっぱい話せてよかった。とてもかわいかった。2日目にスタッフの人に「敬語で話さなくてもいいよ」と言われて内心とてもうれしかった。おもわず泣きそうになってしまいました。(中3女子)


「恩送り」が続いていく社会へ

今回のキャンプには、昨年8月に行った合宿ミーティングの参加者だった高校1年生の女の子が、学生スタッフとして主催側の役割を担っていました。自分とペアとなった年下の子から言われたことに落ち込み、涙してしまうこともありましたが、最後までサポートしようとがんばっていました。

かつてはサポートしてもらう立場の子が、サポートする側になる。「恩返し」ではなく、自分がしてもらったことを他の人にもしてあげる、「恩送り」が生まれています。サポートが必要だった子も、自分はひとりではないことを実感し、自己肯定感を高め、自信をつけていけば、サポートをする側にだってなれるのです。

社会全体で、このような支え合いが自然にできることが必要なのではないでしょうか。このキャンプ自体は、貧困の子どもを支援する小さなモデル事業ですが、このような活動が広がっていってほしいと思います。

子どもの貧困対策センター「あすのば」では、子どもへの直接支援には、経済的サポートと精神的サポートの両方が必要であると考えています。今春に実施にした「入学・新生活応援給付金」は経済的支援であり、精神的支援は合宿キャンプが中核となっています。これから継続的に支援を実施していくためにもみなさまのご支援が必要です。よろしくお願いいたします。

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子どもの貧困対策センター「あすのば」

毎月500円から継続寄付「あすのば応援団」メンバー募集中!

(あすのばは20164月より特定公益法人に認定されました。)

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写真引用: あすのばウェブサイト 小中学生合宿キャンプ
本文引用: あすのば新聞第4号


野口由美子

2016年6月2日木曜日

本屋さんがすすめる、言葉のない絵本

きれいな絵だけ、言葉のない絵本

先日、友人の子が1歳になったお祝いに絵本をプレゼントしようと、本屋さんに行きました。アムステルダムにあるすてきな本屋さんです。本屋さんというと、大手チェーン、ネット販売、電子書籍に押され気味という印象ですが、アムステルダムには個人経営の本屋さんがまだまだあり、こだわりのある品ぞろえをしています。




お店の人に小さい子におすすめの本を紹介してもらいました。
「この本は言葉が全くない絵本で、とても美しいの」


きいろいふうせん 地球一周きいろいふうせん 地球一周
作:シャルロット・デマトーン出版社:西村書店絵本ナビ


私の子どもがもっと小さかったころ、私は字のない絵本を子どもと読む(見る)のはあまり得意ではありませんでした。どうしたらいいのかわからなかったし、お話がないとつまらないのではないか、という気持ちが強かったからです。

自分が苦手なものを友人にプレゼントしてしまっていいだろうか、とちょっと迷いましたが、私はこの本に決めました(私が実際に買ったのはオランダ語版 "De gele ballon"です)。


言葉のない絵本はどうやって読んだらいい?

「この本は自由に楽しむものなの。」
レジに持っていく前に、私は中を開いてみました。店員さんの話は続きます。

「世界のいろいろな場所が各見開きに描かれているけれど、どの絵にも黄色い風船がどこかにいるの。それを探すのも面白いわね。」

「動物や乗り物や、子どもが好きなものがたくさん描かれているわね。どんなものがあるか見つけるのもいいと思う。」

「いろいろなシーンがどのページにもたくさんちりばめられているの。ほら、このページは街の絵だけれど、火事になっている建物があるでしょ。こっちのページの端にはね、消防車が走ってきているの。いろいろな人のいろいろな生活を想像することができるわね。」

「世界を一周するのがこの本のテーマだから、そういう旅のお話を考えることもできるわよね。」

なるほどなあ、と私は思いました。


子どもの言葉の発達に、言葉のない絵本を

どの絵本を読んであげたらいいか、と考えながら絵本を探すことはあっても、絵本をどのように子どもと楽しむか、ということはあまり気に留めていなかった私。そんな私が言葉のない絵本に興味を持つようになったのは、娘の学校の英語教育で、絵だけの本を多用することに気づいてからです。

娘は毎週、絵だけが描かれた薄い本を先生から渡され、持って帰ってきます。それを家で一緒に開きます。絵を見ながら、何が描いてあるか、とか、次のページで何が起きるだろう、とか、いろいろなことを話し合うのです。そういうやり取りが言葉の習得につながっていく、と先生から説明を受けました。

確かに、いつも娘は自分から本を開いて、絵に沿ったストーリーを話し始め、「私にだって本が読めるんだから!」と楽しそうです。普段の親子の会話からは出てこない言葉や話題を話すことになります。

日常生活の中で、よく子どもと話しているつもりでも、幅広い話題で会話していないことに気づきました。「早くしなさい」とか「ご飯できたよ」とか。子どもに聞くことといったら「今日は学校どうだった?」その程度であっという間に1日が過ぎてしまう中で、子どもと本を開く時間は言葉がたくさんあります。


プレゼントを開けてみて

この絵本のプレゼントはとても喜んでもらえました。
1歳の子は、周りのお父さん、お母さんやおばあちゃんがきれいな絵に見入っているのにつられて、膝の上で一緒に眺め始めました。
「ほら、ここには○○ちゃんの大好きなお馬さんがいるよ。」
「数える!いーち、にー、さーん。」
3歳のお姉さんは動物を早速数え始めました。
どのページにも発見があり、大人の語りかけが絶えません。それを聞いている1歳の妹はニコニコしていました。

(写真撮影協力: Boekhandel van Rossum

野口由美子