2017年10月29日日曜日

海外で「空気読む」は通用しない、のウソ

子どもたちの学校は、アムステルダムにあるブリティッシュ・スクールでインターナショナルな環境です。イギリス人など英語圏の子どもはむしろ少数派、ヨーロッパ各国を中心にいろいろな国の人がいます。

そんな中では、日本人ならではのコミュニケーションは通用しないとわかっていましたが、イギリス人的な遠回しな言い回しや、オランダ人的な裏表ない直接的な表現で成り立つのかというとそうでもない様子です。子どもだけでなく、親もいろいろな経験をすることになります。今回はPTA活動。

私は、子どもの学校のPTAで華々しく活躍しているわけではないのですが、日本人コミュニティの取りまとめ役としてちょっとだけ参加しています。

新しく入ってきた家族のオランダ生活を支援するのが、国別コミュニティの主な役割ですが、どの程度活動するかはコミュニティ次第、メンバーによってかなり差があります。日本のPTA活動とは大きく様子が違うように感じます。

コミュニティ・メンバーのサポートという役割に留まらず、自国の伝統行事を授業の中で体験するイベントを自ら企画して主催する国もあるかと思えば、学校行事などへの参加依頼があっても全然やらない国もあります。

日本人コミュニティは、というと、毎年開催されるクリスマスのチャリティーイベントでお寿司を作って販売するのと、各国の文化を紹介するコーヒー・モーニングという保護者向けのイベントを年1回主催する、という活動をしています。これらのイベントはPTAからの依頼があり、やるからにはちゃんと準備もするしそれなりのクオリティのものを提供する、という日本人らしいスタンス(?)でやっています。



日本のコーヒー・モーニングでは折り紙教室も
朝からコーヒーと共に日本食を振る舞います



決意で臨む、PTAの会合


先日、各国のコミュニティ・リーダーが集まるミーティングがありました。集まった親はいろいろな国の人たちです。PTAの会長も来ました。総勢12人くらい、全員女性。

せっかくの機会だと思い、私は密かに心に決めていることがありました。

日本人主催のコーヒー・モーニングをやめたい、と言おう。

この2年くらい、どの国のコーヒー・モーニングも集客がうまくいかず、日本も年々参加者が減って、主催する日本人とお客さんとどっちが多いか微妙な状況。PTAと相談してテコ入れもしてきましたが、うまくいっていませんでした。参加者が集まらないとしても、日本人メンバーは朝からお寿司や和菓子などの日本食を作ってきてくれます。その労力、日本食を作ったことのない人たちにはわかりません。

日本はいつも立派にやっているから、是非今年もやってほしいと言われるだろうな。どうやって説得しようか、全く自信がない私でしたが、いつ自分が話を切り出すか、タイミングを見計らっていました。すると、突然会長が言いました。

「国別コミュニティの活動で、コーヒー・モーニングはちょっと問題あると思っています。一番大きいコーヒー・モーニングを開いているインドはどう思う?」

学校内で最大コミュニティであるインドのリーダーに話を振りました。

「インドはディワリという伝統的なお祭りをテーマにやっていますが、参加している人はインド人ばかり。コーヒー・モーニングは他の国の人に自分の文化を紹介するものだとすると、ちょっと目的に合っていない感じがします。」

会長はうなずきながら、聞いています。

「もっとコミュニティ・リーダーの私たち自身も積極的に参加すればいいのではないかしら。友達を誘い合ったりして。」

他のコミュニティの人からは、すかさず改善提案がなされます。次から次へといろいろなアイディアが出てきます。

--いや、そういう改善はもう十分試してきた気がする。それでもうまくいっていないんだよ。そう言うあなたたちはコーヒー・モーニング主催したことないでしょ。

多分今いるメンバーの中で、このイベントに労力をかけているのは、トップがインド、次は日本で、その他の国はそれほど真剣に取り組んでいないと私は思っていました。今発言している彼女たちは、その場の思いつきでいろいろ言っているだけ、にも聞こえます。

私は心の中ではそう思ったものの、私よりもうまい英語で、調子よくしゃべり続けるメンバーの中に割って入ることもできないまま、黙っていました。インドのリーダーも言いたいことが言い尽くせていないのか、不満そうです。

しゃべっているのは2、3人だけなのですが、今の話の流れでは、結局コーヒー・モーニングは去年と同じやり方で継続、に決まりそうな雰囲気です。これはまずい、と私は焦り始めていました。


議論は思わぬ方向に


頃合いを見計らっていたかのように、また会長が話し始めました。

「コーヒー・モーニングに来る人は年々減っていると認識していたので、PTAでもいろいろ改善を試みてきました。テーマを変えたり、会場を変えたり、開催頻度を減らしたり。でもやっぱり参加者は増えない。」

「日本はどう? 日本のコーヒー・モーニングはいつもきれいな日本食をたくさん用意したり、折り紙教室を開いたり、素晴らしいのよね。」

会長が私の方を向いて言いました。とっさに話を振られ戸惑う私。

「ええ、ありがとうございます。これは準備が大変で。」

私は今まで考え続けていたことは全く言えていませんでした。

会長は私の顔を見て

「そうよね。」

とまたうなずきました。

そこから、会長はコーヒー・モーニングを継続しない方向に議論の舵を切り始めました。彼女はみんなの意見を聞きながら、という姿勢を崩していないので気付きにくいですが、話の流れは会長が作り出しています。そして、最終的に、

今年度からは国ごとのコーヒー・モーニングは中止。その代わり、インターナショナル・デーを作って、各国の文化を紹介する全校レベルのイベントを開催する

と大きく活動内容を変えることにして、その場にいた全員の賛成を取り付けました。

ミーティングが終わる時、不満そうな顔をしている人はいませんでした。


意外な結論、でも満場一致はどうして?


その場で、私はひとり唖然としていたかもしれません。私自身、きちんと意見を言えなかったのに、私以外にもきっと意見を言えていない人はいたのに、会長はその場の声にならない空気を読んで、議論の方向性を決めた。私にはそう思えました。

後でPTAの役員をやっている友人に会長のことを聞くと、

「彼女は素晴らしい人。いつも明るく、精力的に率先して働いている。みんなの意見をよく聞いてくれるし。彼女が会長になってから役員会もすごく雰囲気が良くなった。」

やはり絶賛していました。役員の間でも絶大な信頼があるようです。

自分の意見をきちんと言えていない私はすでに落第なのですが、いろいろな国の人たちが集まっている中で、空気を読むことがこんなふうに機能するとは思っていませんでした。

日本で「空気を読む」といったら、「空気読め!」とか「空気が読めない人」とか相手に対する要求や圧力に使われてしまうことが多いのかもしれませんが、私がこの時見た「空気を読む」人は、周りから信頼され、合意形成への近道を見つけることができる人でした。

私も見習いたい、人間的にも魅力のある会長さんです。


野口由美子

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