2018年5月14日月曜日

孤独でも不安でも「子どもが最優先」誰も知らない母親の気持ち

「お母さんをひとりぼっちにしないでほしい。」

あるシングルマザーから聞いたこの言葉に、中山真珠さん(23歳・大学4年生)は、社会から孤立する母親たちの心の底にある本音を聞いたような気がしたそうです。

子どもの貧困対策センター公益財団法人あすのばの大学生スタッフとして活動する中山さんは、子ども食堂を主催していた母親の影響で、子どもの貧困問題に関心を持つようになりました。しかし、今は子どもを取り巻く「大人の貧困」にも眼を向けたいと言います。

あすのばで活動する中山さん(中央)


子どもの貧困が多いのは、ひとり親世帯です。父子世帯は19万世帯あるのに対して母子世帯は123万世帯あります。どちらの世帯も80%以上の親が就労していますが、父親の平均年間就労収入は398万円であるのに対し、母親の就労収入は200万円という調査結果が公表されています (出典:「厚生労働省の平成28年度全国ひとり親世帯等調査」)

中山さんは、このような数字だけではわからない、シングルマザーの気持ちに触れる体験をしたそうです。その時ご自身が感じたこと、考えたことを語ってくれました。


母親はいつも子どもを想っている


私は「あすのば小・中学生合宿キャンプ」(子どもの貧困対策センター公益財団法人あすのば主催、2018年3月24日から26日に千葉県君津亀山少年自然の家にて開催)で保護者プログラムを担当しました。この合宿は、ひとり親家庭などや、社会的養護のもとに暮らす小学生、中学生の子どもたちが参加し、高校生大学生世代のスタッフと親睦を深めます。

子どもたちが作った横断幕


小学生も対象なので、まだ年齢が小さい子でも参加できるようにと、保護者も参加できる形にしています。でも、様々なバックグラウンドを持つ子どもたちがいるため、参加する子どもの中には両親がいない子もいます。そういう子たちへの配慮もあり、保護者が同伴した場合、合宿中は他の子と同じように子どもだけで行動し、親御さんには別に用意した保護者用プログラムに参加していただき、原則別行動をとってもらっています。 

---(聞き手)ひとり親家庭の支援団体が行うイベントなどでは、親子が一緒に楽しむという形のものが多いそうですね。親と子が別行動になるイベントへの反応はどうでしたか。

今回参加した保護者は5名、全員シングルマザーでした。到着早々親子同伴できないことを知ったお母さんたちは子どもと離れることに戸惑い、躊躇していました。

私たちは、保護者の方に、忙しい日常から離れてゆっくりした時間を過ごしてもらいたい、保護者の方を労いたいという学生のアイディアから保護者プログラムが用意していたのですが、お母さんたちはそういう「自分のための時間を持つ」という気持ちにはなれなかったようです。

「夜飲ませる薬があるんだけど、部屋に行ってもいいですか。」

「渡さなきゃいけない荷物があるんだけど。」

と何かと心配そうなみなさんに

「一人ひとり 担当のバディ(学生スタッフ)がついていますから、彼らに任せていただけませんか。」

とお願いすると、

「大学生のボランティアに子どもを任せるのも...」

と返され、自分たちが全く信頼されていないと思いました。私の説明が悪かった部分もあったと思うのですが、完全に敵対心を抱かれてしまったように感じてしまい、私も、

「子どもたちに楽しんでもらうために、みんながんばって準備してきたので私たちを信じてください。」

と涙を流しながら訴えていました。

---(聞き手)私自身、小学生の子どもがいるので、参加したお母さん方の気持ちがわかるような気がします。もし自分が小学1年生の子どもと参加するとしたら、親子で一緒にいたいと思ったでしょうね。この方達と同じ気持ちになったと思います。

お母さん方の言葉の裏には、本当はいつも子どもと一緒にいたい、もっと子どものことを見ていてあげたい、という母親の気持ちがあったのだと思います。

母親自身にも「母親の気持ちなんて他人にはわかるはずがない」というような感覚があって、あまりそういうことをはっきり言うことは少ないかもしれません。中山さんは感じ取っていたようですが、母親の気持ちは周囲から見過ごされてしまいがちかもしれません。

「親のための時間」はぜいたく過ぎるのか


---(聞き手)保護者プログラムではどのようなことをするのですか。

2日目の保護者プログラムは、合宿会場周辺の散策でした。雰囲気を和ませようとした私が、

「昨晩はよく眠れましたか。」

とお母さんたちに話しかけても、

「(子どものことが)気になってよく眠れないわ。」

散策中も、

「ここに子どもも連れて来たかった。」

とお母さんが「自分だけの時間を持ってリフレッシュする」には遠く及ばない様子でした。

でも、だんだん時間が経つにつれて、みなさんがリラックスした表情に変わっていきました。特にイチゴ狩りをした時は、お母さん同士で楽しそうにイチゴを摘む姿がありました。

イチゴ狩りの様子1


イチゴ狩りの様子2


「いつもは全部自分でしなきゃいけないでしょ。運転するのも、ごはん作るのも、子どもを遊びに連れて行くのも。そしたら1日なんてあっという間だから、こうして全部誰かに用意してもらってたら、『あれ、まだこんな時間だったの?』 って思うくらい、こんなに時間がゆっくり流れるものなんだなって、びっくりした。」 

合宿所に戻る時、そうおっしゃったひとりのお母さんの言葉に他の方も深くうなずいていたのが印象的でした。子育ても仕事もすべてひとりで背負うことがどれだけ多忙なことなのか、感じました。

散策中に見た風景


---(聞き手)私自身はシングルマザーではありませんが、母親としてはいつでも「子どもが最優先」でやろうとしている気がします。「自分のための時間」なんて考えることさえできない状態で行き詰まってしまう母親は、シングルマザーに限らず、多いのではないかと思います。日本では母親が背負うものが大きすぎて、子育て自体がやりにくい環境になっていると感じることもあります。

母親の穏やかな表情を取り戻すには


---(聞き手)合宿中に、お母さん方が子どもたちの様子を見ることはあったのですか。

はい、完全に離れていたわけでもなく、時々様子を確認している方もいましたし、2日目の夜には子どもたちのキャンプファイアーを見てもらいました。

参加者の子の中には、合宿に来る途中に足に怪我をしてしまったため、車椅子で参加している子がいました。キャンプファイアーの場所まで学生たちがその子をおんぶして、周りの子達が協力して車椅子を運んでいる姿がありました。子どもたちはみんな楽しそうでした。

「親がいなかったから、ここまで(子ども同士が)仲良くなれたのかも。」

と、車椅子の子のお母さんが言っていました。子どもの笑顔はかけがえのないものですが、それを見守る親御さんの穏やかな表情も同じくらい尊いものだなとその時思いました。

キャンプファイアーの様子


私は、この合宿のメインはあくまで子どもたちであって、保護者プログラムはサブ的なもの、くらいにしか思っていませんでした。でも、3日間の合宿を通じて、シングルマザーの方々は、毎日忙しく働いていても経済的に困難な状態にあり、子どもの将来に対する不安や子育ての悩みを独りで抱えていることを知りました。

子どもも大事だけれど、女性、特にシングルマザーがもっと生きやすくなるにはどうすればいいか、もっと考えていきたいです。ただのイベントとして終わらせず、これからにもつなげていきたいと思います。

---(聞き手)ひとり親家庭であっても、「子どもが最優先」でがんばっている親がほとんどだと思います。でもシングルマザーは特に、働いていても経済的困難を抱え、生きづらい状況に追い込まれてしまいがちという実態が厚生労働省の調査結果からもわかっています。シングルマザーになったのは個人の事情だったのかもしれませんが、特定の立場の人が生きづらい原因は、個人の事情だけでなく、社会の仕組みがそうなってしまっている、ということにもあると思います。

親が生きづらさを抱えていると、子どもも生きづらくなってしまうものだと私も思います。日本には、どんな家庭の子どもも生きづらさを感じることなく、成長していけるだけの豊かさがあると思います。どの母親も、シングルマザーになる可能性がないわけではないし、教育費の家計負担などはすでに多くの家庭にとって不安となっています。シングルマザーの困難を軽減していくことは、社会全体にとっても、大切なことだと思います。


インタビューの中で中山さんは時折、「自分にはまだお母さんの気持ちがわからないと思う」と率直に話していましたが、それでも一生懸命、保護者の気持ちに寄り添おうとしていました。

インタビューの聞き手であった筆者自身も、母親の気持ちがわかる、と言いながら、シングルマザーの困難をよく理解しているとは言いがたく、社会からも見過ごされがちなのではないかと感じます。子どもの貧困とは何か、大人の貧困とは何か。私たちも何をすべきか考え続けなくてはならないと思います。



聞き手・野口由美子

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